中学に入学した頃だったと思う。
父が購入してきた漫画本があった。
タイトルは,「はだしのゲン」。
本棚の片隅に置いてあり,父から「読め」と言われた覚えはない。
しかし,中学生の私はこの漫画に夢中になり,何度も読み返した。
そんな私の姿を父が見たからか,そのうち「ゲキの河」という,
同じ著者の漫画も本棚に並んだ。
中学時代,涙を流しながらこれらの作品を何度も繰り返し読んだ記憶は未だに忘れない。
今年の正月に実家に帰ったとき,著者の中沢啓治さんが亡くなられたことが話題となり,
その際,妻が読んでみたい,と言い出したことが切っ掛けで,
「はだしのゲン」を実家から自宅に持ち帰ることになった。
懐かしさに駆られ,妻よりも先に読了。
戦争の悲惨さが痛いほどよく伝わってきて,今読んでも涙を誘う,心に響く漫画だった。
そして昨日の朝日新聞(夕刊)に,中沢啓治さんへの追悼文が掲載されていた。
そこには,中沢さんが6歳の時に広島で被爆したこと,
原爆で父,姉,弟を亡くしたこと,母も原爆症で苦しみながら
亡くなったことなどが書かれていた。
これはまさに「はだしのゲン」の筋書きどおりであり,
ゲンは中沢さんご自身がモデルであったことが分かった。
中沢さん自身も原爆症で苦しみながら,ご自身の辛く悲しい体験をもとに,戦争や原爆の悲惨さを多くの人に知ってもらいたい,
との必死の思いで書かれた漫画。
そんな漫画に触れさせてくれた父に,今さらだけど感謝したい。
弁護士 西ヶ谷 知成