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民主主義を諦めない。-エジプトの惨事に学ぶこと-

エジプト暫定政権は、反対派のデモを武力で強制排除した。

一昨日の反暫定政権派のデモに対する治安部隊の攻撃で、
500人を超える死者が出たとのこと。
しかも、無防備の群衆に対する無差別攻撃という形で、である。

この混乱に先立つ今年7月3日、選挙で選ばれたモルシ大統領が、
軍のクーデターにより失脚した。
モルシ大統領に代わって権力を握ったのが、軍が主導する今の暫定政権である。

当時、このクーデターに対し、日本の多くのマスコミは
事実のみを伝えるか、あるいは肯定、否定の両論を併記するなどして独自の評価を避けた。

両論併記における主な肯定意見はこうだ。
経済政策の失敗、止まらない物価高、失業者の増大、強引なイスラム化。
これらの問題を生じさせたモルシ大統領を退陣させて早期に
これらの問題を解決していかなければエジプトはさらに混乱してしまう。
だから、軍のクーデターは必要だった。

それに対し、主な否定意見はこうだ。
「アラブの春」で軍事政権を終わらせ、国民が選挙で選んだのがモルシ大統領だ。
モルシ政権を否定をするのであれば民主的手法によるべきだ。
軍によるクーデターはムバラク軍事政権時代への逆行につながる。

どっちが正しいのかな?
当時はその答えが分からず、ぼんやりと考えるにとどまっていた。

しかし、惨事を目の当たりにした今、いくらモルシ政権に
問題が多かったとしても、クーデターという手法をとったことは
大きな誤りだった、との思いに至った。

民主主義を否定する者が権力を握った後は、
決して民主的手法はとらないこと。
民主主義を否定する者は、往々にして反対意見を持つ者を弾圧すること。
そして、その弾圧は実力行使を伴うもので、大量虐殺をも引き起こす惨事に繋がること。

エジプトの惨事は、既に歴史上自明であるこれらのことを、
改めて教えてくれた。

たとえ民主主義が未成熟であったとしても、民主主義を諦め、
手放したとき、想像し得ないほどの事態を生じさせることになる。

そして、虐げられた側の憎しみは、テロという形となって
虐げた側に報復する。

今後、エジプトにはテロ報復によるさらなる混乱が待ち受けている
ことは間違いない。

翻って日本。

日本の民主主義もまた未成熟であることは明らかである。

先の選挙でも、原発反対、消費税増税反対という国民の多数意思を、
政治に十分に反映させることはできなかった。

そして一人一票の原則が守られていない選挙制度は、
為政者の都合に任せて、未だ温存されたままである。

多くの国民の民主主義に対する失望は、
投票率の低迷にも如実に現れている。

しかし、どんなに不完全な民主主義であってもそれを諦めてはならない。

民主主義を諦めた先に、もっと酷い社会が待っている。

成熟した民主主義の実現を目指し、辛抱強く、ねばり強く、
民主主義を育てていかねばならない。

エジプトにおける今回の惨事を目の当たりにし、
私が強く感じるのは、このことである。

弁護士 西ヶ谷 知成