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「不当決定」の旗を掲げて

弁護士の西澤です。
私が,弁護団の一員として関わっている「袴田事件」について,6月11日に,東京高等裁判所である決定が出されました。
昭和41年,静岡市清水区(旧清水市)で味噌会社役員の一家4人が殺害され,金品を奪われた上に自宅に放火されるという事件が起きました。味噌会社の従業員であった袴田巌さんは,無実であるにも関わらず,この事件の犯人とされて死刑判決を受け,約50年にもわたり身柄を拘束されてきました。
平成27年3月に静岡地方裁判所で再審(もう一度裁判をやり直すこと)の開始決定が出されましたが,検察がこれに対して不服を申し立てており,再審を開始するかどうかを東京高裁で争ってきました。
東京高裁の決定当日,私は,決定が出た直後に裁判所の前で旗を掲げて,集まった支援者の方々や報道関係者に結果を知らせるという役目をいただいていました。直前まで私は,静岡地裁の再審開始の判断が維持されると信じていましたので,手には「再審開始」の旗を握りしめ,今か今かと待っていました。しかし,決定を受け取った弁護人からの電話口に聞こえてきたのは「不当決定」の声。裁判所の前で「不当決定」と書かれた旗を広げた瞬間,支援者の方々の表情が固まり,時間が止まったかのように感じました。すぐに,「こんなの絶対おかしい!」「不当だ!」という悲鳴に近いような声があちこちから聞こえてきました。
東京高裁では,審理の多くの時間がDNA鑑定の信用性という問題に費やされてきました。静岡地裁では,複数の鑑定人が,犯人が犯行時に着用していたとされる「5点の衣類」DNA鑑定を行い,鑑定人の内の1人は,衣類に付着した血液のDNA型が被害者のものとも袴田さんのものとも一致しないという結果を出していました。しかし,東京高裁の決定は,この鑑定人の鑑定手法や鑑定結果が信用できないと判断したのです。
私は,DNA鑑定に関する決定についても,おかしいと思うところはありますが,何よりも,DNA鑑定以外の証拠についての判断に疑問を感じています。例えば,袴田さんは犯人のものとされるズボンをはくことができません。サイズが小さすぎるのです。これに対して,高裁はズボンが味噌に漬けられる前はもっと大きかったはずであるし,袴田さんは逮捕後に太ったから,犯行当時はズボンがはけたはずだと認定しました。このように一つ一つ判断されてしまうのでは,袴田さんに有利な証拠があっても,見方によって結論がいくらでも変わってしまう恐れがあります。「5点の衣類」には,ズボンがはけない,シャツに開いた穴が袴田さんの身体の傷跡と一致しない,ズボンの下にはいていたステテコにズボンより多く血が付いているなど,不自然な点が多々ありますので,これらを総合的に判断するべきです。
6月18日に,弁護団は今回の決定に対して最高裁判所に特別抗告という不服申立をしました。これからは,最高裁に審理の場がうつります。 決定後,沈んでいた弁護団に対して,巌さんの姉・秀子さんは,「50年闘ってきたんだから」と,いつものように明るい言葉を掛けてくださいました。私も,秀子さんの強さを見習い,前に進んでいきたいです。